日本組織培養学会

会長挨拶

会長就任の挨拶

  このたび中村幸夫前会長の後を引き継ぎ,日本組織培養学会の第10代の会長をおおせつかりました,京都大学iPS細胞研究所の浅香勲です.創立以来60年の伝統ある本学会のさらなる発展のために,微力ではありますが尽力させていただく所存ですので,会員の皆様のご協力ご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます.

  本年はCellにヒトiPS細胞樹立の論文が掲載されて10年目にあたります.この間疾患特異的iPS細胞を用いた創薬研究や,iPS細胞から分化誘導した組織や細胞を直接ヒトに移植する再生医療の研究は急速な発展を遂げ,最近では加齢黄斑変性に対する他家iPS細胞由来網膜色素上皮細胞懸濁液移植の臨床研究まで開始されています.言いかえればこの10年は細胞培養技術が細胞生物学などの基礎研究のための技術から,医療分野に応用される産業技術に変革した10年とも考えられます.奇しくも本年は,本学会の細胞培養士認定のための細胞培養基盤技術コースの第1回開催から10年目にあたりますが,この間の受講希望者の推移は正に前述の変革の10年を具現化しており,現在の受講希望者には再生医療研究や創薬研究に従事する研究者,技術者が多く含まれます.10年前に細胞培養技術者の育成を課題として取り上げられた岡本哲治元会長,当時教育研究システム委員会委員長として細胞培養基盤技術コースの開催を取り仕切られた鈴木崇彦元会長の,両先生の先見の明に改めて瞠目している次第です.このように細胞培養技術の重要性が改めて認識された社会的,歴史的背景の中で,本学会がより一層の発展を遂げるためには,会長としてこの任期を通じて次に挙げる課題を意識して活動する必要があるのではないかと考えております.

  1つ目は“基本的な培養技術の標準化とその普及”です.前述のように,培養技術の応用範囲はこの10年あまりで大幅に拡大され,作業内容によっては規模もより大きくなっております.また産業応用という観点では,従来は考慮されなかったコスト面での考察も必要となってきております.今後の培養作業現場に必要とされるより再現性の高いプロコールや作業手順を構築する上では,様々なリスク要因を総合的に判断し管理するリスクマネージメントの考え方が不可欠になっております.本学会はこれまでにも何度か培養技術に関する成書を上梓しており,基本技術の集積は膨大なものとなっておりますが,それらの技術に共通する普遍的な考え方が,新たに展開される個別の応用技術におけるリスクマネージメントに生かされるような観点で,培養技術の標準化が進められる必要があるのではないかと考えております.既に会員通信第136号でお知らせしておりますが,昨年より教育研究システム委員会において細胞培養ガイドラインとしてGCCP (Good Cell Culture Practice) を取りまとめる活動が始まっております.この活動の中からより具体的な標準技術が構築され,細胞培養士認定制度を通じてその技術の普及を図ることが本学会の存在価値の向上に寄与するものと思っております.

  2つ目の課題は“他団体との連携と情報交換”です.前述の技術の標準化と普及に関連しますが,本学会単独で立派な標準技術が構築できたとしても,本学会内の普及のみでは価値ある技術とは言えません.より普遍的な標準技術を構築するためには,他の団体との積極的な情報交換や交流をもつことも重要です.複数団体の共通認識として前述の標準技術が取りまとめられれば普遍的価値はより向上し,普及も進むものと考えます.

  3つ目の課題は“学会運営体制の再検討”です,本学会では学会誌や会員通信発行のほか,細胞培養士認定制度に基づく講習会開催,培養質問箱への対応等で様々な事務作業が発生しております.これまでこれらの煩雑な事務作業への対応は,学会役員各々のボランティア精神に頼り切った状態ですが,前述のように講習会などのニーズがさらに高くなると現在のマンパワーでは処理しきれない状況に陥る可能性もあり,よりシステマティックな事務処理体制に改変される必要があると考えております.本学会の活動が今後永続的に発展するためには,役員個人に過度な負担がかからないような運営体制の構築が不可欠であり,その検討過程において以前からたびたび議論になっている法人化移行についても考慮しつつ,本学会の規模に適した運営体制のありようについて改めて考えたいと思っております.

  最後になりますが,本学会を取り巻く環境は冒頭に述べたように大きな変革を迎えており,会員の皆様も様々な場面においてその余波を感じておられることと思います.しかしながら,本学会が歩んだ60年の道程においてはこれまでも多くの変革があったものと推量いたします.それらの変革を乗り越えて本学会の伝統を築かれた先輩諸兄のご尽力を今一度ふり返りながら,会員の皆様により利ある学会運営を目指したいと思っておりますので,温かいご協力ご支援を賜りますよう重ねてお願い申し上げます.

会長 浅香 勲
平成29年4月1日

歴代会長

1982年以前は会長を置かず大会開催者がその年の世話人をされました。

故)山田 正篤 先生
1982.4-1984.3

故)佐藤 二郎 先生
1984.4-1988.3

故)黒田 行昭 先生
1988.4-1992.3

蔵本 博行 先生
1992.4-1996.3

難波 正義 先生
1996.4-2001.3

許 南浩 先生
2001.4-2005.3

岡本 哲治 先生
2005.4-2009.3

鈴木 崇彦先生
2009.4-2013.3

中村 幸夫 先生
2013.4-2017.3

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